ルーマニア空軍 運用機の概説⑵

前回に引き続き、ルーマニア軍の現有装備をざっくりと紹介する記事です。今回は空軍(Forţele Aeriene Române,FAR)の戦闘機の概略です。

 

ルーマニア空軍は現在F-16とMiG-21の2機種を保有しています。社会主義時代に導入されたMiG-21をF-16で置き換えている最中で、2機種合わせて概ね30〜35機程度の勢力であろうと考えています。

置き換えの真っ最中のためMiG-21の稼働機数がはっきり明示出来る状況ではありませんが、ご容赦ください。内容は正確を期すよう努めていますが、もし誤記や事実誤認などありましたらお知らせください。

 

F-16AM/BM 17機

 

''Peace Carpathian Ⅰ''

1601(←15121/82-0904) 15J

1602(←15123/82-0941) 15K

1603(←15124/82-0944) 15K

1604(←15125/82-0948) 15L

1605(←15126/82-0982) 15M

1606(←15127/82-0999) 15N

1607(←15128/82-1007) 15N

1608(←15129/82-1017) 15P

1609(←15130/82-1022) 15P

''Peace Carpathian Ⅱ''

1613(←15122/82-0918) 15J

1614(←15132/83-1073) 15Q

1615(←15134/83-1077) 15Q

1616(←15135/83-1080) 15Q

1617(←15141/82-0975) 15M

F-16BM×3

1610(←15137/81-0822) 15H

1611(←15138/83-1167) 15Q

1612(←15139/83-1168) 15Q

 

<概説>

F-16は米ジェネラル・ダイナミクス社が開発したジェット戦闘機で、1978年以降NATO加盟国を中心に順次採用され、アジアや南米でも数カ国が使用しています。軽量・小型で制空戦闘にも対地攻撃にも使用できることから改良を重ねながら4600機余りが製造されるベストセラーとなっています。

 

ルーマニアでは2008年5月にMiG-21 LanceRの後継としてF-16C/Dの採用が一度決定し、新造24機(Block50/52アドバンスド)、中古24機(Block25を改修)の計48機をFMS(対外有償軍事援助)で調達する計画とされました。結局この計画は支払いがされずキャンセルとなり、2012年9月にポルトガルから改修を受けた中古機(Block20 MLU)を12機購入することで合意しました。2014年から段階的にルーマニアに引き渡され、最終的に17機がポルトガル空軍から売却されました。全機がボルセアの第86空軍基地に新設された第53戦闘飛行隊に配備されています。2019年3月14日に初期作戦能力を獲得し、MiG-21と共にルーマニアの防空任務にあたっています。なお、機体と共に装備も購入しており、AIM-9M "サイドワインダー"などの空対空ミサイルが搭載されている模様です。

 

なお、2021年12月に国防省ノルウェーから32機のF-16を購入することを議会に要求し、こちらは2022年6月に予算が承認されました。ルーマニア空軍では残りのMiG-21を2023年で完全に退役させる方針のようで、今回追加導入が決まった32機がその置き換えとなる見込みです。戦闘機の定数が具体的にどう決められているかは不明ですが、3個飛行隊(+損耗予備)が全てF-16AM/BMで揃うと見て間違いなさそうです。ノルウェー空軍のF-16はF-35Aの導入に伴い退役したもので、あと10年程度運用が可能とのことです。ざっくり数えてみたところA型34機、B型5機(MLU改修済み)程度はありそうなので、この中から32機が引き渡されることになりそう。

 

MiG-21 LanceR

2021年時点での保有数はMilitary balance 2021では23機とされていますが、2017年のDigi24のニュースでは保有35機稼働18機と説明されているなど保有機数と稼働機数に隔たりがある可能性が高く、最近C型を2機事故で喪失していることもあり多く見積もっても2個飛行隊分をギリギリ下回る程度の稼働状況かな?と思われます。

 

上記の状況から、本項ではここ数年で稼働が確認できた機体をまとめて記載しています。

⭐︎=2019年以降で稼働が確認出来た機体

太字=2023年まで残存した機体

※この項目は随時編集を行います。

 

MiG-21MF LanceR C21機記載

5724 #96005724/

5788 #96005788/

⭐︎5801 #96005801/

⭐︎5834 #96005834/

⭐︎†5913† #96005913/ (2022.03.02 事故喪失)

⭐︎†5917† #96005917/0425 (2021.04.20 事故喪失)

⭐︎6010 #96006010/

⭐︎6105 #96006105/0504

⭐︎6196 #96006196/

6203 #96006203/0506

6207 #96006207/

⭐︎6305 #96006305/

⭐︎6487 #96006487/

⭐︎6499 #96006499/0513

⭐︎6518 #96006518/0515

⭐︎6607 #96006607/0517

6707 #96006707/

⭐︎6807 #96006807/

⭐︎6824 #96006824/

⭐︎6840 #96006824/0525

9611 #96009611/

 

MiG-21UM LanceR B:6機記載

⭐︎061 #516999061 

⭐︎071 #516999071?

⭐︎177 #516999177

9516 #516953016

⭐︎9526 #516953026

⭐︎9536 #516953036

 

<解説>

MiG-21 LanceRは、1970年代に導入されたMiG-21M/MF-75/UMをエルビット・システムズとアエロスターSAが共同でアップグレードした西側仕様対応の改修型です。対地攻撃仕様のA型(71機)、防空任務用のC型(26機)、複座練習機のB型(14機)の3タイプ併せて111機が1995〜2002年にかけて改修され、C型(MiG-21MF-75)とB型(MiG-21UM)が現存します。操縦席はグラスコックピット化されHUDも装備、ライトニング照準ポッドやECMポッドが運用でき、武装ソ連製のR-73に加えて仏マトラ社製のマジック2(R.550)やイスラエルのパイソン3など西側の空対空ミサイル(AAM)も対応するなど、大規模な改修が行われています。

徹底的な改修具合とカラフルな機体カラーは模型でもやりがいのある題材かもしれません。

 

注1)マジック2はフランスのマトラ社が開発した空対空ミサイルです。射程15km,サイドワインダーとよく似たミサイルで、アルゼンチンや南アフリカなどでも採用されています。

注2)パイソン3は、イスラエルのラファエルが開発したAAMです。射程は15kmで、視程内射程で使用されます。シャフリル2(AIM-9Bの独自改良型)の後継として開発され、恐らく1982年のレバノン侵攻から実戦使用されています。

 

ルーマニアでも後継機種のMiG-23やMiG-29を導入していますが、維持費が嵩むため2001〜03年にかけて全て退役しており、このランサーが主力戦闘機として運用されてきました。(経済的な事情からMiG-29を退役させMiG-21等を残す事例は他国でもありました)

 

ただいくら改修をしたとはいえ元々が1975年製の機体ですから、多分世界でもトップクラスのおじいちゃん戦闘機です。老朽化は国内メディアで取り上げられる程度には問題になっており、2021年4月に#5917が墜落事故を起こしたときもしっかりニュースになっていた記憶があります。今年3月には#5913が墜落事故を起こし、遂に4月15日付で全機飛行停止になりました。結局5月23日に’23年3月15日までの期限付きで運用が再開されましたが、この期間が終わると退役する予定です。ノルウェーF-16は既に退役済みなので、うまく行けば来年度の初めくらいにはルーマニアに引き渡されそうです。

 

 

最後までご笑覧いただきありがとうございました🫠